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KAMENO
_____不眠症の女は三日三晩眠らなかった。女は眠らない夜を永遠の一日だと信じ込んでいた。そして四日目、夜が明けると女は狂ったように朝日を全身に浴びた。辺りには女の発狂が轟く。風が女の頬を舐める。息が続く限り女は叫び続けた。そして女は目を開けたまま、ぴくりとも動かなくなった。死んだ魚のようだった。ほどなくして女は眼球をゆっくりと左右へ揺らす。睫毛の隙間から陽がうざったらしいほど差し込んできたとき、女は自らの視界の端に黒い影を見た。一羽の烏だった。それは女のすぐそばに鈍い音を立てて落ちた。庭に打ち付けられた衝撃で舞い上がった烏羽色の羽が陽で蒼く輝いた。女は胸を躍らせた。瞬きをするのさえ惜しいとでも言わんばかりに、女は庭に打ち付けられもうすぐ死にゆくであろう烏を三〇ミリの筋引き包丁で滅多刺しにしてしまった。烏からは蒼色の体液と、畝り飛び出した胃腸が見える。女は快楽と不快感を同時に覚え、烏羽色の羽さえも見えなくなるほどに発狂を繰り返した。女は孤独だった。何をしても満たされなかった。女は眠らない。哀しい鎮魂歌と共に夜を待つことが、これほどまでに女を乱している。女は涙を流した。とても美しいとは言えない、真っ赤な血のような涙を流しながら、また三日三晩眠らない夜を過ごし、四日目の朝日を全身に浴びると、落ちてきたもうすぐ死にゆく烏を刺した。女の長い一日は軟弱な烏を六羽も死体にしてしまった_____。
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